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秋の彼岸に燃えるがごとく

ヒガンバナ(リコリス・ラディアータ)

ヒガンバナ
科名:ヒガンバナ科
学名:Lycolis radiata
原産地:中国とされる
草丈:30cm~60cm
開花期:9月
栽培難易度:バー バー バー バー バー(ふつう)

くわしい育て方

ヒガンバナとは
どんな植物か
生活サイクルと姿形
日本産の遺伝的な特長
ヒガンバナとその仲間

利用と歴史

人との関わり合い
どこからやってきたのか
ヒガンバナと縁起

名前と由来
様々な方言名
学名と由来

ヒガンバナとは

どんな植物か

中国の長江下流域が原産とされる球根植物です。秋の彼岸頃に花を咲かせるので、この名前があります。日本には古い時代に中国からやってきて根付いた史前帰化植物とされています。どの時代に、どうやって来たのかは諸説あります。これについては『どこからやってきたのか』で詳しく説明します。

水田などの耕作地や人家周辺、寺社や墓地、河川周りなど人が生活を営む範囲に多く自生する、いわゆる人里植物です。人里に多いのは、かつて作物として利用されており、半ば栽培状態にあったからとされています。利用については『人との関わりあい』で説明いたします。

あまり栽培されない植物ですが、球根は夏頃から園芸店などに流通するので一定の需要はあるのでしょう。園芸ではヒガンバナもひっくるめて、リコリスの仲間として扱うことが多いです。カテゴリーとしては夏植え秋咲き球根になります。

生活サイクルと姿形

生活サイクルは開花期-生育期-休眠期の3ステージに分けられ、これを毎年繰り返します。 9月頃に休眠から覚めます。花茎を長く伸ばして、その先端に5~8輪の花を放射状に咲かせます。花色は赤で、花びらは細長くて縁がよじれて大きく反り返ります。雄しべは長く、花の外へ大きく突き出ます。この時期には、まだ葉っぱが出ていません。 10月頃に花茎が倒れ、地際から葉っぱが出てきます。

葉っぱは線形で、先端が少し丸まり、色は濃緑色です。葉っぱは地表でわさわさ茂って茎は伸びません。冬の間にたっぷり日射しを浴びて生長し、球根が分かれて数が増えます。5月頃に葉っぱが枯れて、球根の状態で休眠に入ります。

生育サイクル

球根の形は球型で、上部が首のように細長くなり、表面は黒い皮に包まれています。球根は正確に言うと葉っぱと茎が変化したのもので、専門的には鱗茎と言います。身近なものを挙げると、タマネギやニンニク、ラッキョウなども鱗茎です。 リコリンというアルカロイドを含んでおり有毒です。嘔吐、皮膚炎などの中毒症状が知られています。

日本産の遺伝的な特長 2倍体と3倍体

日本に自生しているものはおもしろい特長があります。それは、3倍体で基本的にタネを結ばないと言うことです。3倍体とは染色体を3コ一組でもつ個体のことです。ふつう、染色体は両親から1セットずつもらうので、2コ一組になります。これを2倍体と言います。

原産地とされる中国にはタネを付ける2倍体とタネを付けない3倍体の個体があります。中国原産の2倍体は3倍体よりも全体的に小さく、コヒガンバナと呼んで分類上は変種(var. pumila)として区別する考え方もあります。

3倍体は「タネができない・できにくい」「2倍体と比較して大型になりやすい」などの傾向があります。自然発生することもあれば、人工的に作られることもあります。タネなしスイカは人工的な3倍体の代表例です。

日本に自生するものは個体による変異が見られず、すべて親系統が同一だとされます。要するに、遺伝的にすべて同じ個体です。

ヒガンバナとその仲間

ヒガンバナはヒガンバナ科リコリス属に分類されます。リコリス属は日本を含む東アジアに数十種が分布します。 よく知られるものに、ショウキラン〔L. aurea〕、ナツズイセン〔L. squanigera〕、キツネノカミソリ〔L. sanguinea〕などがあります。詳しくは別ページの「リコリスとは」を参照にしてください。

シロバナマンジュシャゲ〔L. × albiflora〕はヒガンバナの白花種ではなく、ヒガンバナにショウキランが掛け合わさった雑種ではないかと言われています。

利用と歴史

人との関わり合い

現在では利用されることはありませんが、古くは色々な形で用いられた、人との関わり合いの深い植物です。とにかく地方ごとの呼び名(方言名)が多く、その数は600とも900を越すとも言われます。それも古くから身近にあった植物だったからかもしれません。

-食料や薬として
ヒガンバナの球根には重量の10%のデンプンが含まれます。有毒植物なので、丹念な毒抜きが必要だったようですが、食用とされていました。球根をつぶして煮て、さらしに入れてしぼって、絞り汁を何度も水にさらすなどの工程を経て、沈殿したデンプンを利用します。具体的にはモチや団子にしたり、雑穀と混ぜて食べられました。食料の確保が難しい端境期などに利用された、救荒作物としての色合いが強かったようです。 また、すりつぶした球根を患部に塗るというような、民間療法も知られています。

-虫や獣除け
糊にすり下ろした球根を混ぜて、屏風などの下紙を張るのに用いると虫が付かない、土壁に混ぜるとネズミがかじらない、獣除けに墓場に植えるなどがあります(土葬した亡骸が食べられたりしないように、ということのようです)。また、モグラ除けのために水田の畦に植えたりもしました。

-雑草除け
ヒガンバナは他の植物の生長や発芽を抑制する他感作用(アレロパシー)があります。水田の畦に植えると、雑草を抑える効果があるとされます。キク科に効果があり、イネ科には効果が薄いのも、水田には合うのかもしれません。

実用とは異なりますが、現在では群生地を保護して観光地として活用も各地で見られます。

どこからやってきたのか

中国から日本に入ってきた経緯や時期は諸説ありはっきりしません。主なものに縄文後期から晩期に稲作とともに伝えられた「人為分布説」や球根が海流に載って流れ着いた「自然分布説」があります。その他にも、奈良・平安時代に中国・韓国から他の植物とともに伝えられた、葉っぱを梱包材として用い、そのとき球根も混じっていてそれが定着した、などの説もあります。

伝播ルートもはっきりしませんが、朝鮮半島や台湾、沖縄などに史前帰化と思われるものが確認できないため、中国から直接日本に来たのではないかと考えられています。

ヒガンバナと縁起

日本では縁起の悪い花と言われることがあります。方言を見ても、「しびとばな」や「じごくばな」と呼ばれていた地方もあります。いつ頃からそのようなイメージができたのかは不明で、理由もはっきりしません。墓場でよく見るから、毒をもっているから、花色が毒々しく日本人の好みに合わないから、などと色々と言われています。

そのような先入観がないアメリカやヨーロッパでは、ふつうに栽培される植物です。古くは園芸用に、日本や中国から輸出されていました。

名前と由来

様々な方言名

ヒガンバナは、曼珠沙華と呼ばれることも多いです。これは、赤花を指す梵語に由来します。あらかたこの2つが標準的な呼び名です。その他にも葬式花や死人花などの呼び名もありますが、これは墓地に植えられていたところに由来するのでしょう。

地方ごとの呼び名(方言名)がとにかく多く、その数は600とも900とも言われます。その名前は姿形や性質に由来するもの、毒があり危険を知らせる意味合いのもの、はたまた意味不明のものまであります。

-方言名の一例(日本植物方言集成より抜粋)
あかばな(兵庫・氷上)、いっときごろし(大分・北海部)、うまのしたまがり(鳥取)、かえんそー(仙台)、きつねのはなび(京都・綾部市)、じごくばな(日本各地に点在)、しびとばな(日本各地に点在)、ちゃんちゃんぼ(徳島)、ちょーちんばな(日本各地に点在)、ちんちんどーろ(島根)、ひーひりこっこ(静岡・榛原)

学名と由来

学名はリコリス・ラディアータです。リコリスはギリシア神話の海の女神リュコリスにちなむとされますが、他の人名由来とも言われはっきりしません。ラディアータは「放射状の」という意味で、花茎の先に花を放射状に付けるのでこの名前があります。

参考文献
栗田子郎 ヒガンバナの博物誌  研成社(1998)
松江幸雄 日本のひがんばな リコリス属の種類と栽培 文化出版局(1990)
有薗正一郎 ヒガンバナの履歴書 あるむ(2001) 
長沢武 野外植物民俗事苑 ほおずき書籍(2012)
八坂書房 日本植物方言集成 八坂書房(2001)
柳宗民 柳宗民の雑草ノオト ちくま学芸文庫 筑摩書房(2007)
ヒガンバナ科リコリス属

リコリス(ヒガンバナの仲間) - キツネノカミソリ - ナツズイセン - 

シロバナマンジュシャゲ 

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